満月(大潮)の日は魚が多い?
差は見られない
釣り人の「ソルナー理論」――月の位置が魚の活性を決め、満月・新月(大潮)によく釣れる/食う、という根強い言い伝えがあります。それを、市場に届く魚の量で検証します。指標は東京都中央卸売市場・水産の日次卸売数量。
総卸売数量(水産・全分類)
- 平均(全期間)
- 1,758,310 kg/日
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 98.6
- 新月の日 (±24時間)
- 99.6
- 満月の日の判定
- 差は見られない
鮮魚(生鮮)
- 平均(全期間)
- 653,098 kg/日
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 97.8
- 新月の日 (±24時間)
- 100.3
- 満月の日の判定
- 差は見られない
冷凍(月とは無縁の対照)
- 平均(全期間)
- 298,438 kg/日
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 96.8
- 新月の日 (±24時間)
- 98.1
- 満月の日の判定
- 差は見られない
対象データ: 2004年〜2026年・東京都中央卸売市場 日報(水産・全市場)・5,970 営業日分
第2幕: 市場の魚の量を大きく動かしていたもの
今回のデータで、はっきり見えた差はこちらです。
−57%
入荷が最も多い月は12月で、年平均の約1.1倍。旬と年末年始の食卓が、量を大きく決めていました。曜日でも、最も多い月曜日は最も少ない日曜日の約1.2倍――市場の開市リズムが、はっきり効いています。
そして、もっと大きな変化は時代の流れです。2004年から2026年で、1日あたりの入荷量は約57%も減りました。満ち欠けが28日で巡る間に、魚の食卓は静かに痩せていったのです。
市場の量からは、満月の日に魚が増える様子はまだ見えていません。ただ「大潮でよく釣れる」の大潮は、月が確かに動かしている潮の満ち引きです。釣れ方と市場に届く量は別物なので、月と魚の関わりには、まだ探す余地があります。
釣り人が信じる「ソルナー理論」
魚釣りの世界には、月にまつわる古い言い伝えがあります。月と太陽の位置が魚の活性を左右し、とりわけ満月・新月(=大潮)の前後にはよく釣れる――いわゆる「ソルナー理論(Solunar theory)」です。1930年代に米国のジョン・アルデン・ナイトが提唱して以来、釣具メーカーの釣行予報アプリにも組み込まれ、今も多くの釣り人が「今日は大潮だから」と竿を出します。
魚がよく獲れるなら、その魚は港から市場へ運ばれ、せりにかけられます。だとすれば――もし満月が魚を動かすなら、満月の前後には市場に届く魚の量が増えているはずです。 この問いを、日本最大の魚河岸である東京都中央卸売市場の、約22年分・日次の卸売数量で確かめます。
この判定はどう計算しているか
- データは東京都中央卸売市場「日報」の水産・全市場の日次卸売数量(2004年〜、Shift-JISのCSVを全営業日分集計)。総量に加え、漁の影響が出やすい鮮魚(生鮮)と、月とは無縁の冷凍を分けて見ています。冷凍は「月で動くはずのない対照」です
- 魚市場には強い曜日リズム(日曜・水曜などの休市)と季節性(旬・年末需要)があります。そこで「同じ曜日×同じ月」の平均を期待値とし、実測÷期待の指数で比較します。出生・事故トピックと同じ調整方式です
- 日本時間の正午の月齢で「満月の日(瞬間±24時間)」「新月の日」を判定し、各グループの指数の平均を平常(100)と比べます
詳しい判定基準は方法論をご覧ください。
データを読むときの注意
市場の入荷量は「漁獲そのもの」ではなく、供給の代理指標です。獲れた魚が市場に並ぶまでにはおよそ1日のラグがあり、遠洋・冷凍のまぐろにいたっては月や旬とほぼ無関係に通年で流れます。つまりこのデータは、沿岸の生鮮魚については漁の波をある程度映しますが、漁獲量そのものの完全な記録ではありません。それでも、満月が漁を左右するほどの力を持つなら、22年・数千営業日の入荷の波に、その影が差すはずです。
大潮という、確かな手がかり
「大潮でよく釣れる」という体感には、確かな手がかりがあります。大潮は、月が動かしている潮の満ち引きそのものです。本サイトでも、潮位ははっきり「多い」と出ました(→潮位)。ただ、市場の量は旬と年末の食卓、市場の開市リズムにも大きく動かされます。月の力は、市場の数字に届くまでに、ほかの大きな波に紛れているのかもしれません。
まだ見えていないこと
今回の結果は「月は関係ない」という意味ではありません。今の調べ方では、次のようなことが見えていません。
- 釣れ方:1人あたりの釣果と、市場に届く量は別物です。よく釣れる日があっても、市場の量にはそのまま表れません
- 魚の種類:沿岸の特定の魚だけが大潮で動いていても、全部の魚を合わせた量の中では見えにくくなります
- ずれ:大潮のピークは満月の瞬間より1〜2日遅れ、市場に並ぶまでにさらに約1日かかります。満月の日だけを見ると、その山を外している可能性があります
次に調べたいこと
- アジ・イカなど、沿岸の鮮魚の種類ごとに分けて見る
- 満月の2〜3日後にずらして比べる
- 釣り船などの釣果の記録で確かめる
大潮で釣れるという釣り人の感覚には、月と魚をつなぐ何かがあるのかもしれません。いつか、それをデータで見つけ出したいと思っています。
データ出典
- 東京都中央卸売市場 日報(水産・全市場の日次卸売数量。出典: 東京都中央卸売市場)
- 月齢・朔望の瞬間は Jean Meeus "Astronomical Algorithms" のアルゴリズムによる自前計算(UTC基準)
最終更新: 2026年10月7日 00:48 (UTC)(毎日自動更新)