満月の夜は頭痛が増える?
差は見られない
閲覧数は「頭痛に困って調べた人」の代理指標で、発症そのものの記録ではありません。それでも、痛みが増える夜があるなら検索も増えるはず——という前提で月齢との関係を見ています。
記事「頭痛」の閲覧
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 98.3
- 新月の日 (±24時間)
- 102.1
- 満月の日の判定
- 差は見られない
記事「片頭痛」の閲覧
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 96.7
- 新月の日 (±24時間)
- 99.1
- 満月の日の判定
- 判定保留
記事「群発頭痛」の閲覧
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 98.1
- 新月の日 (±24時間)
- 97.1
- 満月の日の判定
- 差は見られない
記事「気象病」の閲覧
- 平常(同じ曜日・同じ月の平均 = 100)
- 100.0
- 満月の日 (±24時間)
- 109.0
- 新月の日 (±24時間)
- 98.2
- 満月の日の判定
- 判定保留
対象データ: 2015年〜2025年・Wikimedia Pageviews API(bot除外済み)・3,837 日分
月の形ごとの閲覧数(平常=100)
| 月の形 | 頭痛 | 片頭痛 |
|---|---|---|
| 新月ごろ27.7〜1.8日 | 100 | 100 |
| 三日月ごろ1.8〜5.5日 | 101 | 101 |
| 上弦ごろ5.5〜9.2日 | 99 | 97 |
| 十三夜ごろ9.2〜12.9日 | 100 | 100 |
| 満月ごろ12.9〜16.6日 | 99 | 99 |
| 寝待月ごろ16.6〜20.3日 | 99 | 101 |
| 下弦ごろ20.3〜24.0日 | 102 | 101 |
| 有明月ごろ24.0〜27.7日 | 100 | 101 |
同じ曜日・同じ月の平均を100とした閲覧の指数を、月齢(新月からの日数)の8区分ごとに平均しました。月の形と関係がなければ、どの区間も100前後になります。8区間すべての判定は「差は見られない」でした。
第2幕: 頭痛の調べものを大きく動かしていたもの
今回のデータで、はっきり見えた差はこちらです。
×6
「頭痛」記事が最も読まれた日(2021年11月28日)の閲覧は平常の約6倍。閲覧が跳ねた上位1%の日は平均の約4.1倍で、その日その日の事情で大きく揺れています。
頭痛の引き金としてよく知られているのは天気です。人々が頭痛と一緒に調べるのは「気象病」——低気圧のほか、寝不足や曜日のリズムも、身近な引き金として知られています。
このデータからは、まだ月が頭痛を増やす様子は見えていません。ただ、月と睡眠、月と片頭痛の関わりを報告した研究もあります(下の解説で紹介しています)。痛みは気のせいではありません。月との関わりも、まだ探している途中です。
「満月で頭が痛くなる」は、なぜこれほど語られるのか
満月の前後になると頭が重い、片頭痛が出る——この実感を語る人は少なくありません。月の引力が体内の水分を引っ張る、気圧や自律神経が乱れる、といった説明もよく添えられます。痛みそのものは本物です。問題は、その引き金が本当に月なのかだけです。
ただ、頭痛には地震計も検潮儀もありません。「今夜、何人が頭痛になったか」を毎日記録した公開データは存在しないのです。そこで私たちは、痛みの代理指標として「頭痛について調べた人の数」——Wikipediaの「頭痛」「片頭痛」「群発頭痛」「気象病」の日次閲覧数を使いました。痛みが増える夜があるなら、それを調べる人も増えるはず、という発想です。
代理指標の限界は正直に
閲覧数は発症数そのものではありません。痛くても調べない人は大勢いますし、ニュースや季節の話題で閲覧が動くこともあります。だからこのトピックは「頭痛の真の発生率」を測ったとは主張しません。測っているのは「頭痛に困って手を伸ばした人の痕跡」が、月の満ち欠けに沿って増減するか、です。
それでも、もし「満月で頭痛が増える」が体感として強く実在するなら、月のリズムに沿った増加が代理指標にも薄く滲むはず——その薄い痕跡を、約10年・全日次の閲覧から探しました。
この判定はどう計算しているか
- データはWikimedia Pageviews API(公式・bot除外)の日次閲覧数、2015年7月〜前年末
- 各記事について「同じ曜日×同じ月」の平均閲覧数を期待値とし、実測÷期待の指数(平常=100)で比較します。週末や季節の偏りはこれで打ち消されます
- 日本時間の正午時点の月齢で「満月の日(瞬間±24時間)」「新月の日」を判定し、各グループの指数平均を平常と比べます
詳しい判定基準は方法論をご覧ください。
満月・新月のころに頭痛を感じやすい理由
このページのデータでは、満月や新月の日に頭痛の痕跡は増えていません。それでも「月のころに頭が痛い」と感じる人が多いのには、月そのもの以外の理由がいくつか考えられます。
1. 睡眠が少し短くなるかもしれない
月が睡眠に影響するかどうかは、研究の結果が分かれています。
- 2013年、スイスの研究チームは、窓のない実験室で眠った人でも、満月のころは寝つきに時間がかかり、深い眠りが減ったと報告しました(Cajochen ほか, Current Biology)
- 翌2014年には、より大きな既存の睡眠データでは同じ傾向が再現されないという報告が出ました。目立つ結果ほど発表されやすいという問題も指摘されています(Cordi ほか, Current Biology)
- 2021年には、腕時計型の機器で睡眠を測った研究が、アルゼンチンの先住民の村から米国シアトルの大学生まで、満月の前の数夜は寝る時刻が遅くなり、睡眠が短くなっていたと報告しました(Casiraghi ほか, Science Advances)
寝不足は片頭痛のよく知られた引き金の一つです。仮に月が睡眠を少し削っているのだとしても、それは「月→寝不足→頭痛」という間接的な道筋です。月の明るい夜でも、睡眠を確保することで避けられる側の話です。
2. 月経の周期が、月の満ち欠けと近い長さ
月経の前後に起きる片頭痛は、医学的にもよく知られています。そして月経の周期は、月の満ち欠け(約29.5日)と近い長さです。毎月同じころに起きる頭痛は、カレンダーの上では「月のころの頭痛」にも見えます。
2021年の研究では、長期間の記録を調べたところ、周期が27日より長い女性では、月経が月の明るさや引力の周期と一時的にそろうことがありました。ただし年齢を重ねたり、夜に人工の光を浴びたりすると、周期が短くなってそろわなくなりました(Helfrich-Förster ほか, Science Advances)。
3. 天気(気圧・気温・湿度)の変化
頭痛の引き金としてよく知られているのは、天気の変化です。満月と気圧のページで調べたとおり、満月の日の気圧の差は0.5hPa未満で、日々の天気による気圧の揺れに埋もれて、まだ見分けられていません。
トルコの救急外来で1年間、片頭痛で受診した3,491人を調べた研究でも、受診数は月の満ち欠けとは関係がなく、気温が高い日や湿度が低い日に多くなっていました(Yilmaz ほか, 2015年, American Journal of Emergency Medicine)。
4. 記憶に残りやすいのは「満月の夜の頭痛」
満月の夜に頭が痛むと「やっぱり」と記憶に残ります。一方で、何も起きなかった満月の夜や、満月と関係のない日の頭痛は忘れられがちです。このページが記憶ではなく、毎日の記録を数えているのはそのためです。
「新月の前に片頭痛が増えた」という研究もある
2025年、米国の研究チームが、片頭痛のある成人98人が約6週間、1日2回つけた頭痛の日記を分析しました。頭痛が起きやすかったのは新月の1〜2日前で、満月の前に比べて約1.34倍。睡眠や月経のタイミングでは説明できなかったと報告しています(Yoo ほか, Headache)。
ただしこの研究は、98人を1人あたり約6週間(月の満ち欠けの約1周半)追った記録を、あとから別の目的で分析したものです。著者自身も、確かめるには追加の研究が必要だと書いています。
本サイトの閲覧データでは、新月の直前(上の表の「有明月ごろ」)の片頭痛の閲覧は平常並みでした。ただし閲覧数は痛みそのものではないので、この研究を否定する材料にはなりません。どちらのデータも、まだ「月が頭痛を増やす」と言える段階ではない、というのが今の正直なところです。
自分の頭痛と月の関係を確かめるには
いちばん確かなのは、自分の記録です。日本頭痛学会が配布している頭痛ダイアリーに、頭痛のあった日、強さ、飲んだ薬、睡眠、月経などを書き込んでいきます。日付さえ残っていれば、月齢はあとから調べられます(このサイトのトップページに毎日の月齢を載せています)。
月の満ち欠けが2〜3周する2〜3か月分がたまれば、頭痛が満月や新月のころに偏っているかを自分の目で確かめられます。同じ記録は、受診のときにも医師に症状を伝える助けになります。
受診の目安
このページは医療の判断をするものではありません。突然の激しい頭痛、これまでに経験したことのない頭痛、手足のしびれや話しにくさ・高い熱を伴う頭痛は、月齢にかかわらず、すぐに医療機関を受診してください。迷うときは、地域の救急相談窓口(#7119を実施している地域もあります)も使えます。
頭痛が月に何度も起きる、痛み止めを飲む日が多いといった場合は、頭痛外来や脳神経内科で相談できます。
まとめ
約10年分の閲覧データからは、満月や新月の日に頭痛が増える様子はまだ見えていません。けれど、痛みは気のせいではありません。睡眠や月経周期、新月前の片頭痛の研究のように、月との関わりを示す手がかりもあります。今日からできる備えは、その夜の睡眠と天気の変化に気を配ること。そして月と頭痛のつながりは、毎日の記録を続けながら、いつか見つけ出したいと思っています。
データ出典
- Wikimedia Pageviews API(CC0)
- Cajochen C, et al. Evidence that the lunar cycle influences human sleep. Current Biology 2013;23(15):1485-8. doi:10.1016/j.cub.2013.06.029
- Cordi M, et al. Lunar cycle effects on sleep and the file drawer problem. Current Biology 2014;24(12):R549-50. doi:10.1016/j.cub.2014.05.017
- Casiraghi L, et al. Moonstruck sleep: Synchronization of human sleep with the moon cycle under field conditions. Science Advances 2021;7(5):eabe0465. doi:10.1126/sciadv.abe0465
- Helfrich-Förster C, et al. Women temporarily synchronize their menstrual cycles with the luminance and gravimetric cycles of the Moon. Science Advances 2021;7(5):eabe1358. doi:10.1126/sciadv.abe1358
- Yilmaz M, et al. Meteorologic parameters and migraine headache: ED study. American Journal of Emergency Medicine 2015;33(3):409-13. doi:10.1016/j.ajem.2014.12.056
- Yoo A, et al. Waning light, waxing pain: The lunar cycle's association with migraine headache occurrence. Headache 2026;66(3):584-594(オンライン公開2025年). doi:10.1111/head.15035
- 日本頭痛学会「頭痛ダイアリー」
- 月齢・朔望の瞬間は Jean Meeus "Astronomical Algorithms" のアルゴリズムによる自前計算(UTC基準)
最終更新: 2026年10月7日 00:48 (UTC)(毎日自動更新)