満月は気圧を下げる?
差は見られない
頭痛トピックの「真犯人は低気圧」を裏取りする検証です。もし満月が本当に気圧を動かすなら、月経由で頭痛を起こせることになります。指標は日平均の海面気圧(標高差を消した値)。
東京
- 平均(全期間)
- 1014.0 hPa
- 満月の日 (±24時間)
- 月平均−0.11 hPa
- 新月の日 (±24時間)
- 月平均+0.23 hPa
- 満月の日の判定
- 差は見られない
ロンドン
- 平均(全期間)
- 1015.3 hPa
- 満月の日 (±24時間)
- 月平均+0.13 hPa
- 新月の日 (±24時間)
- 月平均+0.11 hPa
- 満月の日の判定
- 差は見られない
ニューヨーク
- 平均(全期間)
- 1016.6 hPa
- 満月の日 (±24時間)
- 月平均+0.38 hPa
- 新月の日 (±24時間)
- 月平均−0.13 hPa
- 満月の日の判定
- ほぼ関係なし
対象データ: 1940年〜2025年・ERA5再解析(日平均・海面更正気圧)
第2幕: 気圧を本当に動かしているもの
「差」を探しに来た方へ。本物の差はこちらです。
−32 hPa
東京で観測史上もっとも気圧が低かったのは1970年1月31日——日平均で約982 hPa、平常より約32 hPa低い嵐の日でした。月の満ち欠けではなく、前線や台風が一日でこれだけ気圧を引き下げます。
天気は日々、気圧を平均±5.7 hPaの幅で揺らします。一方、月の大気潮汐(月が大気を引く効果)は中緯度で0.1 hPaにも満たず、この天気の揺れの中に完全に埋もれます。
低気圧は確かに頭痛の引き金になります。でもその低気圧を呼ぶのは前線と嵐であって、満月ではありません。
頭痛トピックの「真犯人」を、今度は気圧そのもので確かめる
頭痛のトピックで、痛みの引き金として最も疑われるのは満月ではなく低気圧だと書きました。だとすれば、ひとつ確かめておくべき問いが残ります——そもそも満月は、気圧を動かすのか? もし満月の夜にきまって気圧が下がるなら、月は「気圧経由で」頭痛を起こせることになります。逆に動かさないなら、月は頭痛への裏口も持たないことになります。
そこで、頭痛の容疑者である気圧そのものを、満月・新月の日と平常の日で比べました。
月の大気潮汐は実在する。でも桁が違う
正直に書くと、月が大気を引く力(大気潮汐)は実在します。海の潮汐と同じ原理で、気圧にもごくわずかな月周期の変動が知られています。ただしその大きさは、中緯度で0.1 hPa にも満たない——天気が一日で気圧を数十 hPa 動かすのに対して、千分の一以下のさざ波です。日平均気圧の満月日と平常日を比べても、この差は天気の揺れに完全に埋もれ、検出できません。
この判定はどう計算しているか
- データはERA5再解析(Copernicus C3S、CC-BY)の日平均海面気圧。海面更正なので標高差が消え、東京・ロンドン・ニューヨークを同じ約1013 hPaの土俵で比べられます
- 気温と同じく気圧は0をまたがない絶対量で比率(×1.00)が無意味なので、「同じ月」の平均からの偏差(hPa)で信頼区間を取り、hPa単位の閾値で判定します
- 各都市の正午の月齢で「満月の日(瞬間±24時間)」「新月の日」を判定し、偏差の平均を平常(0 hPa)と比べます
詳しい判定基準は方法論をご覧ください。
真犯人は、前線と嵐
気圧をドラマチックに動かすのは月ではなく天気です。観測史上の最低気圧の日はどの都市でも嵐(台風や爆弾低気圧)の日で、日平均でも平常から数十 hPa下がります。そして派手な記録だけでなく、ふつうの毎日でも天気は気圧を±数 hPaの幅で揺らし続けています。月のさざ波は、その波の中では見えません。
低気圧は確かに頭痛の引き金になります。けれど、その低気圧を運んでくるのは前線と嵐であって、満月ではありません。痛む夜に空を見上げるなら、満ち欠けではなく天気図を。
データ出典
- ERA5再解析(Copernicus Climate Change Service (C3S)、CC-BY 4.0)。日平均海面気圧。履歴値はOpen-Meteo経由で取得、年次更新はCopernicus CDS直取得
- 月齢・朔望の瞬間は Jean Meeus "Astronomical Algorithms" のアルゴリズムによる自前計算(UTC基準)
最終更新: 2026年6月13日 18:02 (UTC)(毎日自動更新)